ルイジアナ州ニューオーリンズ在住。美術の修士号を取り、ビジュアル・アートの世界で活躍したのち1988年作家デビュー。アーティストの感性を生かしたみずみずしい描写とドラマティックなストーリーで人気作家の地位を確立した。95年発表の『レッド』は大変なベストセラーとなり、日本ではコミック化、テレビドラマ化もされた。近年はサスペンス色の強い作品を積極的に著している。

鬼才エリカ・スピンドラーの真骨頂ともいうべき不朽の恋愛小説を、皆様にお届けできることを嬉しく思います。主人公のアナベルは、15歳のときの悲惨な経験から、全てを拒絶して、孤独に生きてきました。そんな彼女のもとに、ある日、謎めいた一人の男性ラッシュが現れるのです。今は成功したものの、里親の家をたらい回しにされ、惨めな路上生活さえ経験した孤児院育ちのラッシュは、どうしても自分の素性を知りたくて訪ねてきたのでした。両親もいまは亡く、一人で廃墟となった歴史ある屋敷を切り盛りしているアナベルのむなしい人生。弟は働かず、遊びほうけて、しまいには家を売る。ひどい男性恐怖症のせいで、いざ、そのときになると拒否してしまい、誰とも恋愛も結婚もできずにこの年まで来てしまったアナベル。それでも何もせず、なんとなく過ごしてきたつまらない人生に決定的な終止符が打たれて、彼女は初めて思い出すのです。この世にまだ幻滅する前、両親がいたころの、けして気づかなかったけれど、幸せに満ちた“普通の少女”の時代を……。 少女のころの自分が恋しかった。希望に満ち、ふっくらとしてかわいかったあのころが。いつの日か愛する人に巡り逢えると信じていた。私を愛してくれる人に巡り逢えると。――本文より―― 望んで叶わないことを夢見る年はとうに過ぎたというのに、アナベルはラッシュを前にするとなぜか心が震える。しかし、その恋には、あまりにも残酷な“真実”が潜んでいたのです。訳もまた素晴らしく、全文が詩のよう。内面の吐露が静かなささやきのように綴られる――純粋で、切なくて、胸苦しい。ぜひ一人でも多くの方に、この素晴らしい名作に触れてほしいと心から願います。